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トヨタは、1800億円の部品代高騰をどうやって乗り切ったのか 原価改善のファインプレー - ITmedia

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 すでにお聞き及びの通り、上半期決算でトヨタが過去最高益を記録した。ほんの2カ月前には、部品不足による生産調整で40万台規模の追加減産のニュースが飛び交ったにもかかわらずにだ。筆者も「さすがに今回は厳しいだろう」と考えていたのだが、話があまりにも変わって、少々頭の切り替えが追いつかない。一体トヨタはどうなっているのか?

トヨタ自動車の21年4-6月連結販売台数(トヨタ決算資料より)

 まずは概要の数字からおさらいしよう。

  • 販売台数 409万4000台(昨対 プラス100万8000台)
  • 営業収益 15兆4812億円(昨対 プラス4兆1060億円)
  • 営業利益 1兆7474億円(昨対 プラス1兆2274億円 利益率11.3%)
  • 税引き前利益 2兆1440億円(昨対 プラス1兆4152億円 )

 まずは数字の意味を見ていく。昨年の上半期はまさに世界がコロナショックに飲み込まれた時期であり、多くのエコノミストは、自動車メーカーの赤字転落を予測していた。その中でトヨタは期首に「5000億円の黒字を出す」と不退転の宣言をして、世間を驚かせた。

 うっかりすると通期売上高30兆円、同利益3兆円近くを叩(たた)き出しかねないトヨタが5000億円に目標を定めた辺りに、事態の深刻さが見て取れる。それでも「本当にそんなことが可能なのか」と思わせる目標だった。それを昨年上半期の見通しでは1兆3000億円に上方修正してきたことは更なる驚きを呼んだ。

 いくら事前の見立てを大幅にクリアしたとはいえ、コロナ直撃期の数字である。例年に比べれば厳しくて当然。昨年の上半期実績は、極端な向かい風の参考記録のようなものだった。その昨年上半期との比較で見るならば、今年の上半期は全ての項目が大幅にプラスになることは不思議ではない。どこまで本来のトヨタに戻ったかをチェックするためには、一昨年のデータと比較しなくてはならない。

 その数字こそが右端にある棒グラフである。販売台数を見る限り、ざっくり88%のラインまで戻ってきている。そういう意味ではさしものトヨタもまだ本調子とはいえないかに見える

 しかし、その先の数字を見ると話が違ってくる。営業収益では、15兆4812億円と、すでにコロナ以前の数値15兆3582億円をわずかとはいえ凌駕(りょうが)している。営業利益ではさらに拡大し、1兆3992億円から1兆7474億円に。営業利益率(9.1%→11.3%)と税引き前利益(1兆6218億円→2兆1440億円)は最早圧倒的。何かの間違いではないかと思うほどコロナ以前のデータを突き放している。

売り上げ、利益ともにコロナ以前をすでに超えた(トヨタ決算資料より)

原材料費値上がり1800億円を原価改善で乗り切る

 さて、一体何が起きているのか? 手がかりとして「連結営業利益増減要因」を見てみる。

営業利益増減要因(トヨタ決算資料より)

 左から「為替変動の影響」が2500億円だが、まあこればかりは時の運で、企業努力の及ばない部分。その次の「原価改善の努力」がひとつのキーになる。あのトヨタが原価改善でマイナスを付けているのだ。

 これこそ部品不足に起因する原材料費の値上がりで、純粋な原材料費値上がりは1800億円となっている。しかし不思議なことにそれがこのグラフではたったマイナス300億円になっている。トヨタが何をやったのかといえば、「加工」領域のコストダウンである。「原価改善」には「原材料仕入れ」と「加工」がある。仮に猛烈な勢いで下請けを締め上げたところで、毎年毎年厳しくコスト管理をしている原材料の値下げ幅など高が知れている。つまりトヨタの「原価改善」の原動力は「加工」工程の工夫によるコスト削減なのだ。

 そしてこの加工領域のコスト削減を、トヨタはサプライヤーに伝授する。作り方を変えればコストは下がる。エンジニアがサプライヤーに赴いて、一緒に徹底して作り方改革を行う。それがやがて「原材料仕入れ」に跳ね返ってくるわけだ。

 今回、部品不足の厳しい中で、売り手市場になった部品はまずコストダウンできない。もの作り改革以前に、コロナ禍で人手が不足して工場が稼働できない状態にあったからだ。動いていないものにカイゼンもへったくれもない。

 トヨタは例年、内部基準として「原価改善」の目標を3000億円に置いているが、半期の1500億円を今回はほぼ自力だけでやり抜いた。1800億円の仕入れ原価増加を1500億円の加工費低減で押し戻した結果が、マイナス300億円ということだ。猛烈な値上げ圧力をほぼ引き分けに持ち込んだここが、今回のトヨタの隠れたファインプレーである。

 ファインプレーというと派手で人目に付くものを想像しがちだが、あのイチローのプレーを見ているとそういうものばかりではないことがわかる。明らかにフェンス直撃の捕れるはずのないフライを、さも捕れるかのように手を挙げて、2塁ランナーを足止めしておいてから、一気にクッションボールを処理する。本来なら一点取られたところを、手を挙げる一動作で、ただの進塁打にしてしまう。地味もいいところだが、1点を守るファインプレーである。

購買数量予測の正確化でサプライヤーを巻き込む

 さて、次に「営業面の努力」だ。ここは今回各社軒並み良好な成績を挙げているが、トヨタはまた金額が大きい。この項目には、ざっくりいって2つの要因がある。ひとつはサプライチェーントラブルに起因するタマ不足によって、値引きをする必要が無くなったこと。売り手市場なので、「値引いてくれないなら他社のクルマを買う」というユーザーの伝家の宝刀が使えない。嫌でも渋い値引きになるので、その分販促費がダウンする。

 しかし、このメカニズムも放って置いて自然にそうなるものではない。タマ不足が酷すぎれば誰も買わなくなる。「納車は再来年です」と言われて注文書にサインするお人好しはいない。そもそも全てのメーカーがタマ不足の中で、値引かずに販売していくためには、他社より早く生産を再稼働させなくてはならない。やがて各社が普通に生産できるようになれば、ユーザーは再び伝家の宝刀を抜くからである。

 ではどうしてトヨタは他社より早く、生産を再開できたのか? それの原因は、サプライヤー各社に通達する購買数量予測の正確化にある。他社より細かく、長期にわたる予測を立て、通達した数量の受け入れを厳守する。仮に「所詮は他人事」とばかりに、後になって「やっぱりいらない」などと無責任に言えば、オオカミ少年と判断されて、真剣に対応されなくなるのだ。

 メーカーは、通達した数量をサプライヤーが用意できなければ罰金を科す。そういう鞭(むち)があるから、サプライヤーは日常的には約束を守る。しかし、仮に全員残業体制で必死に増産した部品を「やっぱりいらない」といわれたらサプライヤーは堪ったものではない。残業人件費は当然割り増しが伴うし、納品できなくなった部品は宙に浮いて、資金の回転が悪くなる。そういうマイナスは、結局のところコストアップにつながり、メーカーに返ってくることになる。

 特に今回のようなグローバルなシステムエラーが発生している中では、その対応の差は拡大される。工場が稼働できないサプライヤーは、当然売り上げが落ちる。メーカーが困るだけではなく自分たちも困るのだ。そういう中で「買う」と約束してくれた数量を必ず買ってくれる客がいるなら、どんな手を使ってでも、働き手をかき集め、頼まれた部品を作ろうとする。メーカーのためではない。自分のためだ。危機であるほど真剣さが違う。

 もちろんトヨタだって、いらないものはいらない。納品を断ったり延期したりすることはあるかもしれないが、それが自分に跳ね返ってくることを知っているトヨタは、予測の正確さに徹底的にこだわるのだ。この厳しい環境下で、トヨタが過去最高益を叩き出せた秘密はそこにある。

営業利益は2兆8000億円見通し

 さて、もうこの辺りでトヨタの決算の本質的な部分はほぼ説明してしまったのだが、この先は例のごとくトヨタが強い話を検証していくだけになる。ちっと退屈かもしれない。

地域別営業利益では日米を大きく伸ばした(トヨタ決算資料より)
中国は台数を落としたものの利益は伸ばしている(トヨタ決算資料より)

 所在地別の営業利益は、日本、北米、欧州、アジア、その他で例外なく伸びている。特に日本と米国の伸びが大きい。数がはけるマーケットで強いということだ。連結決算対象外の中国では台数が若干落ちたものの、利益は大きく伸びている。

 株主配当は前年実績に15円積み増して120円。自己株式も1500億円取得する。これは要するに発行済み株式を少なくして、株の希少性を高めることで、株価を支える意味がある。さらに1株を5株へと分割することで額面を下げ、投資し易い環境も整えている。まさに余裕の成せる技だ。

 さて、では通年見通しはどうなのか?

連結販売台数見通し(トヨタ決算資料より)

 台数は前回見通しより15万台下げて、855万台。それでも前期実績の764万6000台よりはかなり多い。営業収益は前回見通しと変わらず30兆円。営業利益は3000億円増えて2兆8000億円。利益率も1.0ポイント増えて9.3%。税引き前利益に至っては3300億円増の3兆4400億円である。見ていて驚きを通り越して笑えてくる。

22年3月期の見通し(トヨタ決算資料より)

 何よりも驚くべきは、その収益体質の改善だろう。解説はいるまい。もう無人の野を行くがごとき快進撃で、筆者には言葉もない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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November 15, 2021 at 05:00AM
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