Search

未利用食品をシェアして日本の食環境を改善 「見えないフードロス ... - 日経BP

jn.prelol.com

食べられる食品が廃棄されてしまうフードロス問題。農林水産省によれば、国内では年間523万トン(2021年度推計値)もの食品が捨てられている。多くは、食べきれずに捨てられたり、売れ残りが廃棄されたりするこのフードロスだが、実は製造段階でのロスが全体の4分の1を占める。食品メーカー勤務時代、実際に工場で大量の食材が廃棄されるのを見て、「なんとか活かせないか」と立ち上がったのが、長野県にオフィスを構えるスタートアップ、ICS-net代表の小池祥悟さんだ。「見えないフードロス」という課題の解決を目指した新しい取り組みを追った(全2回、本記事は前編)。

「日本は、こんなに食品を捨てていいはずがない」

日本は、食文化の豊かな国として知られる。和食は、ユネスコの人類の無形文化遺産としても登録された。しかし、国内の食料自給率は低い。2021年はカロリーベースで38%(農林水産省「令和3年度食料自給率・食料自給力指標について」より)と、過去と比べても低い数字となった。国は2030年までに45%まで引き上げる目標を掲げてはいるものの、現実的に我々の食生活は、多くの部分を輸入に頼らざるを得ない状況となっている。

しかし、その輸入も決して楽観はできないと話すのはICS-net代表の小池祥悟さんだ。小池さんは前職の食品メーカー時代、海外から食材を調達する部門に所属。現地で交渉する際、日本の弱さを肌で感じたという。

小池祥悟氏。ICS-net株式会社(長野県長野市)代表取締役。大手食品メーカーに20年勤務。新規事業部部長、食品開発部部長、品質保証部長を歴任し2017年に独立し創業。食品原料マッチングサイト「シェアシマ」、ロス食材に付加価値をつけて販売するアップサイクル商品の開発など、食品製造における課題を解決する事業を多数手掛ける。

小池祥悟氏。ICS-net株式会社(長野県長野市)代表取締役。大手食品メーカーに20年勤務。新規事業部部長、食品開発部部長、品質保証部長を歴任し2017年に独立し創業。食品原料マッチングサイト「シェアシマ」、ロス食材に付加価値をつけて販売するアップサイクル商品の開発など、食品製造における課題を解決する事業を多数手掛ける。

(写真提供:ICS-net)

「向こうの担当者に、日本には売りたくないって言われたんです。日本のメーカーは品質にうるさいくせに量を買わない。しかも値切るからと。もう円が強い時代でもありません。いくら買おうと思っても相手が中国や欧州に売ってしまったら、手に入らない。すでに日本は、海外市場で買い負けていました」(小池さん)。

一方、農林水産省が発表した資料によれば、日本のフードロスは年間で523万トン。これは、国民1人当たり42kgに相当するという。このままいけば、食料が足りなくなる未来にじわじわと進んでしまうと小池さんは警鐘を鳴らす。

「食料自給率が低く、輸入も心許ない。円安も続いている。もっと食料を大事にしなければいけない国のはずなのに、フードロスが多すぎる。こんなに捨てていいはずがないんですよ」(小池さん)。

一面のネギ畑が食べられないまま処分

フードロス523万トンの内訳は、家庭系食品ロスが47%と約半数を占める。事業系の食品ロスで最も多いのは工場など製造段階で廃棄されるロスだ。実に全体の24%に相当し、外食(15%)やスーパーやコンビニなどの小売業(12%)より、製造段階で出るロスのほうが多い。

国内の食品ロスの内訳。事業系食品ロスは53%、家庭系食品ロスは47%。事業系で最も多いのは食品製造業から出るロスで、全体の1/4を占める。

[画像のクリックで拡大表示]

国内の食品ロスの内訳。事業系食品ロスは53%、家庭系食品ロスは47%。事業系で最も多いのは食品製造業から出るロスで、全体の1/4を占める。

(「農林水産省 食品ロス量(令和3年度推計値)」よりICS-netが作成)

小池さんによれば、食品製造でロスが多いのは複数の工場が関わるためだという。例えば、カップ入り味噌汁を製造する場合、まず「わかめ」や「乾燥豆腐」などそれぞれの原料メーカー、そこから食材を仕入れて加工するメーカーの工場と、作業が分かれる。最終的に商品になるまでに複数の工場を経由するわけだが、その一つひとつでロスが生じてしまうのだという。

食品の加工には複数の工場が関わり、そのすべてでロスが発生する。「原材料は何十トンという単位で仕入れることも多く、ロスの規模も大きい。解決には、食品業界全体をつなぐコミュニティが必要です」(小池さん)

[画像のクリックで拡大表示]

食品の加工には複数の工場が関わり、そのすべてでロスが発生する。「原材料は何十トンという単位で仕入れることも多く、ロスの規模も大きい。解決には、食品業界全体をつなぐコミュニティが必要です」(小池さん)

(画像提供:ICS-net)

量の調整が入って余剰在庫が出たり、検品に引っかかって処分されたり。輸入した乾燥ネギの1つの箱に異物が混入していたときは、同じロットの2トン分が、まるまる処分されたこともあったという。

「おそらく、もう一度選別すれば使えたかもしれませんが、手間と時間を考え、買い直したほうがいいという判断だったのだと思います。乾燥ネギで2トン分といえば、“あたり一面のネギ畑相当”のネギです。自分は農家で育ったこともあり、まだ食べられる食材が大量に廃棄されるのを見るのは、しのびなかった。メーカーも工場も捨てたくて捨てているわけじゃありません。ですがメーカーも、じゃあもったいないから全部買うよ、とは言えない。ロスはみんながつらいんです」(小池さん)

目指すは、持続可能なセカンダリーマーケットの構築

まだ食べられる食材を、なんとか捨てずに、誰かが使えるインフラを作りたい。持続可能な食品製造の未来を作りたい。このような思いをもって、小池さんはメーカーを退職。製造中に出るロス食品のセカンダリーマーケットの構築を目指し、2019年に未利用品を持つ企業や工場と食品メーカーをつなぐプラットフォームサービス「シェアシマ」を立ち上げた。名前の由来は、「その原料、シェアしませんか?」。

「シェアシマ」サービスのイメージ図。食品業界向けの原料検索サイトとして運営している。全国の売り手と買い手がシェアシマというプラットフォームサービスを通じてつながる。立ち上げから4年が経過し、製造中のフードロスの削減に一定の効果を見せ始めているという。

[画像のクリックで拡大表示]

「シェアシマ」サービスのイメージ図。食品業界向けの原料検索サイトとして運営している。全国の売り手と買い手がシェアシマというプラットフォームサービスを通じてつながる。立ち上げから4年が経過し、製造中のフードロスの削減に一定の効果を見せ始めているという。

(画像提供:ICS-net)

マーケットとして捉えたのは、各食品メーカーの商品開発部門だ。小池さん自身、かつて新商品開発に携わった経験から、開発時の食材探しの選択肢になれば、需要が見込めると踏んだ。

「商品開発で大変なのは材料の調達。どんな食材を使うか、どこにそれはあるのか、探すのに非常に苦労するんです。さらに言えば、欲しい食材が見つかっても、きちんとした規格書がないとメーカーは使えません。要するに、規格書つきのサンプル食材探しに困っているので、ここを解決するお手伝いをしようと考えました」(小池さん)

工場の未利用品は、在庫が不安定で継続的な供給はできない。だが、登録工場が増えれば、多種多様な食材を集められ、さまざまな食材に出会いたいメーカー側のニーズに応えられる。これに規格書をきちんと添えた状態で提供できれば、利便性の面でも実用的というわけだ。

現場のニーズを優先し、入り口を広げるところから開始

しかし、すんなりと軌道には乗らなかった。まず、新しい取り組みであるために認知がなかなか広がらず、登録企業を増やすのに苦労した。さらに日本の食品メーカーが求める食品の基準は非常に高く、余ったものや返品されたものは、たとえサンプルとしての利用でも敬遠されるケースが多かった。かといって価格でメリットを打ち出そうとすると、生産者にお金が行かなくなって迷惑がかかり、ビジネスとしても難しくなる。そもそも、安ければ売れる市場でもない。そこでまずは未利用品に限らず、全国の食品のサプライヤーとバイヤーをマッチングさせるサービスとして、シェアシマを広げていくことにした。

「食品をメーカーに売りたい原料メーカーや問屋などのサプライヤーは、全国にたくさんいます。そことメーカーをITでマッチングさせるサービスをつくって、まずは知ってもらうことを目指したのです。開発部に入った新人さんが先輩から、『ちょっとシェアシマでいい原料ないか見といて』と言われるぐらい、食材探しのスタンダードになるのが目標。その流れで未利用品の存在にも気づいてもらい、使えるものは使っていただく世界をつくっていけたらというのが我々の思いです」(小池さん)

原料検索サイトとしての普及活動を進めた結果、登録企業はサプライヤー、バイヤー合わせて3000社を超えた。ICS-netは今後、シェアシマを「食品業界の新しいインフラ」として位置づけ、認知拡大を目指す。

[画像のクリックで拡大表示]

原料検索サイトとしての普及活動を進めた結果、登録企業はサプライヤー、バイヤー合わせて3000社を超えた。ICS-netは今後、シェアシマを「食品業界の新しいインフラ」として位置づけ、認知拡大を目指す。

(画像提供:ICS-net)

認知拡大のために、コロナ禍ではメディアも立ち上げた。商品を開発する際は、たいていベンチマークとする他社商品がある。そこで各社の製品情報を集めてデータベース化して、開発担当者が利用できるようにもした。また、地方のサプライヤーが自分たちの商品をメーカーにプレゼンできる場があまりないのも課題だったため、オンラインでイベントやセミナーを開催した。食品業界がつながるための、土壌づくりをすることにひたすら専念したのだ。

シェアシマが発行するメディア「シェアシマinfo」。紙とWebサイト両方の形態で発行しており、食品に関するトレンドや原料の最新ニュースなどを取り上げる。第1回はプラントベースの食材について特集した。

シェアシマが発行するメディア「シェアシマinfo」。紙とWebサイト両方の形態で発行しており、食品に関するトレンドや原料の最新ニュースなどを取り上げる。第1回はプラントベースの食材について特集した。

(撮影:カクワーズ)

今年(2023年)、立ち上げから4年が経過。少しずつ認知は広がっている。まだセカンダリーマーケットの確立とまではいかないが、確実に成果は出始めているという。未利用品の利用が少しずつ増え始め、2022年は、これまでなら棄てられていた2トンほどの食材をセカンダリーマーケットで消費できたとする。

「バイヤーである食品メーカーは全国に2万5000社くらいありますが、シェアシマに登録してくれているのは2000社程度。まだまだ、ほとんどのところに認知が行き届いていません。認知の裾野が広がれば広がるほど、欲しいと手を挙げてくれる人も増えるはず。地道に伝えていくしかないですね」(小池さん)

新しいセカンダリーマーケットを開拓

一つひとつのマッチングを地道に進めていくうちに、新たな活路も広がってきた。外食産業との連携だ。

「今年の夏、100%のスイカ果汁が大量に余ってしまった工場があり、『食品ロス削減プロジェクト』という名目でサイトに掲載したところ、環境意識の高い都内の飲食店が購入。季節限定のスムージーの材料として全て使ってくれました」(小池さん)※

※ 同社のメディア「シェアシマinfo」Webサイトに、こちらのスイカ果汁を使って商品化した企業の事例記事が掲載されている。URLはhttps://ift.tt/MKvdf0h

配送は工場から直接手配しコストカットしつつ、生産者の利益が損なわれない価格で提供し、お互いにメリットが出るよう工夫した。季節限定、あるいは期間限定なら、数が不安定という未利用品のネックを解消できる。外食産業とのマッチングは、新たな未利用品のマーケットとして期待できると話す。

長野駅からすぐの場所にあるシェアシマのオフィス。製造中の食品ロス削減のために、長野から全国に発信し続ける。

長野駅からすぐの場所にあるシェアシマのオフィス。製造中の食品ロス削減のために、長野から全国に発信し続ける。

(撮影:カクワーズ)

もうひとつ、小池さんが力を入れているのがアップサイクル商品だ。工場から出る未利用品や端材などを使ったアップサイクル商品の開発を手伝い、付加価値をつけて新しい商品として作り出す。

それが長野市の協力を得て立ち上げたアップサイクルブランド、「長野アップサイクル・フード」だ。第一弾商品は、信州のブランド地鶏を活かした商品の「ふくふくレバーシリーズ(全6種)」。品質には問題ないものの捨てられていた鶏肉のレバー・ハツを缶詰に適用した。

これまで廃棄されていた食材を食べやすく長期保存可能な缶詰にしたこと、食品ロスを消費者にも見える形にして啓発しやすい形にしたことなどが評価され、2023年度の「グッドデザイン賞」に選ばれた。ICS-netではこのブランドの第二弾としてウエハース端材を使った地ビールも商品化している。

後編では、こうした原料のシェアとは違う形での、食品ロスを減らす取り組みを紹介する。

シェアシマのオフィスにて。

シェアシマのオフィスにて。

(撮影:カクワーズ)





Adblock test (Why?)



"缶詰食品" - Google ニュース
November 20, 2023 at 10:00PM
https://ift.tt/Ztye5MT

未利用食品をシェアして日本の食環境を改善 「見えないフードロス ... - 日経BP
"缶詰食品" - Google ニュース
https://ift.tt/xyAECnp
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update
https://jn.prelol.com/

Bagikan Berita Ini

0 Response to "未利用食品をシェアして日本の食環境を改善 「見えないフードロス ... - 日経BP"

Post a Comment

Powered by Blogger.