イラスト 赤田咲子
高名な精神科医エリック・バーンに「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」という言葉があります。この言葉は日々の生活の中でも役に立ちますが、私はカウンセリングの際にしばしばこの言葉を思い浮かべます。職場の対人ストレスに悩んで訪れる人は、周囲の言葉に傷ついたと語る人が多いのですが、その時に相手を責め、周囲が自分の望むように変わってほしいと口にすることが少なくありません。それはかなわないので、自分が変わる必要があります。
自覚症状はひどい頭痛だが、問題は…
証券会社の支店に勤務する２９歳の白崎奈美子さん（仮名）は、ひどい頭痛で社内の診療所内科を受診していました。主治医は念のために脳のＭＲＩを含め検査を行いましたが、画像には異常は見られません。その医師は、ストレスの関与を疑って精神科医の私を紹介しました。私は初診時に、彼女の緊張をほぐすために雑談をしていて、ある言葉が気になりました。前の支店で職場のグループから「いじめのようなもの」を受けたと言うのです。
その件についてよく聞いてみると、彼女は最初、仲間内のたわいのないからかいだと思っていましたが、他の仲間はからかわれず、自分だけが対象になっていることに気付いて、「いじめ」と感じるようになりました。話題がなく盛り上がらない時に、彼女がターゲットになったようです。その時にひどい頭痛を体験したと言います。
支店を異動して周囲のメンバーが変わって３年たつのに、何かの拍子につらかった記憶がドクドクという拍動性の頭痛とともによみがえってくるのです。どうやら「いじめ」の経験がトラウマとなっているようです。その次からカウンセリングを始めました。
ストレスと頭痛は関係する
産業医 ： 頭痛はいかがですか。
白崎さん： 脳の検査で異常がなくて安心しました。薬で多少は楽になりますが、薬を飲み続けるのは副作用が気になりますね。
産業医 ： 前回のお話から白崎さんの頭痛はストレスと関係があるように思えます。最初の支店での経験は相当につらかったのですね。
白崎さん： そうですね。女性が１０人で二つのグループができていました。最初は先輩に教わることも多いし、ファッションの話題とかおしゃべりも楽しくて、退社後もお茶や食事をしていました。でも、３年目ぐらいになると、自分の時間も持ちたかったので参加するのを減らしたら、からかわれたり、嫌みを言われたりすることが始まりました。
産業医 ： からかい？
白崎さん： 嫌なことを言われて、仲間は笑うという感じでした。それが重なってきて頭痛が始まったのかもしれません。
産業医 ： 異動した今もそんなことがあるんですか？
白崎さん： それはないのですが、頭痛がして、つらかった気持ちを思い出すんです。
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February 09, 2022 at 03:22AM
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